
当社がおすすめしている「生の味噌」について、お客さまから「味噌が生だと何がいいの?」というご質問を受けます。「第一、お味噌汁にするとき、熱湯に入れると菌はしんじゃうから同じでしょう?」と、ごもっともなご指摘です。でも、味噌は生がいいです。
味噌というものは、もともと微生物が造るものなので、一定の時間が経ったら「これで出来上がり」というものではありません。発酵熟成が進んでいる中を、人間が必要なとき、食べたいときに食べているものですから、常に「発酵熟成途中の生の味噌」は普通のことです。
味噌が生まれて千年以上が経ち、もともと自家用にそれぞれが造っていた味噌は、販売を目的に造られ、「味噌」という商品になりました。やがて味噌は、大量に造り、流通し、陳列販売するのが一般的になりました。そのために一般の加工食品と同じように、少量パッケージに密封した包装形態も普通になりました。
こうなると、包装した後に再発酵しない(ふくれない)こと、売り場で見栄えが良くて変色しづらいこと、一般の加工食品と同様に調味料などで味付けもできて、安定して変化しづらいことが求められます。そのために味噌は、加熱殺菌や酒精などで制菌処置を施した「発酵済み加工食品」に変化していかざるを得なくなっています。それが安くて便利で美味しい「今の時代の普通の味噌」です。
当社がおすすめする「生の味噌」は、いわば「昔の時代の普通の味噌」です。仕込んでからずっと微生物が働いてくれている、まさに発酵熟成中の状態です。はじめから手作業で仕込み、発酵させ、熟成させます。そういう味噌は大量に造れません。「生の味噌」は生きていますから密閉包装はしません。製造者自身が直に説明して販売することを原則とします。販売待ちの味噌は常に味噌にとって冬の状態にして保管しています。
こうしたことは手間がかかりますし、効率も良くありません。しかし、たくさんの種類の蔵付きの菌をできるだけ生きたままお手元にお届けすることは、伝統食の発酵屋として大事な使命だと考えています。「生の味噌」には何か特別な良い成分が含まれているのかと聞かれれば、それは分かりません。しかし、味噌以外のものは何も入れておらず、味噌本来のものは充分に含まれていると思っています。
せっかくの菌も味噌汁にすればみんな死んでしまうのではないか、というご心配はごもっともです。80℃以上の環境に長く曝されると、およそ9割の菌は死んでしまいますが、具材由来の菌も含め、味噌汁の中では元菌の約1割は生き残っています。とはいっても、お味噌汁はできるだけ火を止めてから最後に溶かし込むことをおすすめします。