子供の頃、映画がとても嫌いだというチケット売りのおばさんがいたのだが、それはそれとして仕事に支障は無かったように見えた。しかし、味噌屋は違う。味噌屋は味噌が本当に好きでなければ、味噌屋にはなれない。
「味噌が好き」というのには2つの意味がある。1つは「味噌の味」が好きということ、
もう1つは、「味噌という文化」が好き、ということである。
味噌文化とは、千年以上前から日本人の暮らしの中にあったこの伝統的発酵食品が、その歴史の中で単なる一つの食品ということを超えて暮らしの中に常にあり続けたことによって出来上がったものである。
日本人の食生活がいわゆる「一汁一菜」だった頃には、必需品として当たり前であった味噌は、時代が変わり新たな価値観が出来上がった食卓の中で、新たな意味を持つようになった。
時にはあらゆる国の食材や料理を日本の嗜好にマッチさせる調味料。また時には慌ただしく貧しくなりがちな食生活のブレイクポイントとして。そしてまた時には食事の中で日本人が日本を思い起こさせる重要な脇役として・・・。味噌の果たす役割は、味噌の文化に由来していると言える。
こうした食べものを超えた存在感を持つ味噌の文化に、驚いたり感動したり、時には新しい役割に気づいて心ときめいたりできる味噌屋でありたい。
日本人の中にある「味噌文化」に共感し、食べものだけでないその「文化」に共鳴し続けることが我々の仕事であり、そしてそれが「好き」だから「味噌屋」なのである。そう考えられれば、これからも続けられると思うのである。