いま「味噌が健康に及ぼす効用」として研究発表されている項目は、おおむね次のようである。
1、コレステロールバランスの改善(動脈硬化防止、血圧安定)
2、抗ガン作用(特に乳ガン、胃ガン)
3、抗酸化、老化防止(過酸化脂質の生成防止、肝臓内酸化抑制効果)
4、胃潰瘍の防止、十二指腸潰瘍の防止、抑止
5、放射性物質体外排出作用、放射性物質を原因とする消化器障害の防止
6、貧血防止、造血作用
7、糖尿病、肝障害の予防 等々
こうして改めて列挙してみると、味噌はまるで「魔法の食品」のようでさえある。昔から漠然と「味噌は体に良いんだよ」と言われていた事柄が、今こうして具体的な病名、症状に対応して列挙されると、今更ながら味噌さえ食べていればたいていの病気は心配ないとさえ思えてくる。
本当にそうだろうか?
近代的栄養学の発達と分析技術の進歩は、栄養効果に見合う成分を分析分離して、わかりやすい形で示すことに貢献した。「何をどれだけ食べれば良いか」という事の根拠を明確に数値化して示せるようになった。そして「成分の効果」=「それを含む食品の効果」として認知されるようになった。味噌の効用も、その原料である大豆由来の成分「サポニン」「ダイゼイン」「コリン」「レシチン」「トリプシンインヒビター」「ビタミンE、B2、B12」などによって説明されることが多い。
しかし、食物を食べるということはそれらの成分を単体として体内に入れていることではない。食べることによって一緒に入ってくる諸々(時には生きもの)と渾然一体となっているものであり、それが重要なポイントである。ひとつの食品のひとつの栄養成分が単体で健康に寄与するというものでもない。多様な食物を、食べやすく、美味しく、そして効果的に調和させるのが調理であり、健康的な食文化である。
「味噌」はそうした現実的な日常食生活の場面において、健康指向的(こんな言葉があるのか?)に登場してくる食品である。「味噌」はその広い汎用性と嗜好性の高さ故に多種類の食品を多様に組み合わせ調和させることが得意である。その上で巧みに害を抑えて益を増すという効用を持つ優れた「コーディネート調味料」として日本の食文化で1,000年以上も受け継がれてきた。もちろん味噌単体に含まれる成分の効用もさることながら、それよりももっと大事な価値はどんな食べ物とも相性が良く、それらを調和させて複合的効果を生み出す「健康指向性食品」であるところにある。味噌の効用は、安全で美味しい様々な味噌料理を創り出せる伝統的発酵食としての特性に由来するのである。



