青源本店の第二製造所。高温多湿に設定された「麹室(こうじむろ)」の中で、味噌仕込み教室用の麹が造られています。
昔ながらの手仕事で、この大切な麹造りを担うのは、しもつけ工場長の村田浩之さん。この道20年のベテラン職人です。
麹菌の命を宿した蒸米の温度は、ぐんぐんと上がっていきます。旺盛な生命力によるものですが、油断はできません。温度が高すぎると、麹菌は、自らの熱で焼け死んでしまうからです。
昼夜を分かたず、見守りや手入れが続き、迎えた出麹の日。白くふわふわとした麹を見つめる村田さんの笑顔が、何よりも、麹造りの成功を物語っていました。
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村田さんが青源に入社したのは、2003年。機械エンジニアの経歴を生かして配属されたのは「円盤」と呼ばれる製麹機(せいきくき)を操る麹造りの現場でした。「全く分からなかったので毎日が必死でした」と振り返ります。
“修行”の日々の中には、大失敗の経験も。ふかしたお米の水分量が高く、製麹機の中でべたついて固まってしまい、スタッフ総出の清掃作業という大事態を招いてしまったそうです。
うつむく村田さんを救ったのは、先輩職人の励ましでした。「この方が麹が溶けやすくていい味噌ができるんだ。米の芯が残るより、失敗の振り方はいいぞ」。
こうして手厚い指導を受けながら、村田さんは伝統的な麹造りの技術を身につけていきました。
「深夜、麹の様子を工場に見に行ったり、泊まったりした時もありましたが、全く苦にならず楽しかったですね。それは、たぶん麹が生きものだから。手をかければ、変化が分かるので」
生きものゆえの面白さと難しさ。経験を積んだ今も、その奥深さを実感しています。
「決まり通りにお米をふかして、冷まして、種付けしても、同じ麹にはならないんです」
それでは、よい麹を造るためには「何が」大切なのでしょう。
「想いや気持ち、取り組む姿勢なのかな。もちろん技術もありますが、一番は麹に気持ちを集中すること。その気持ちの込め方だと思うんです」
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先人たちの想いを背負って、青源は2021年、宇都宮市三番町から下野市下古山の「しもつけ工場」に味噌製造の現場を移しました。
ハイテクな機械を導入し、大量生産が可能になったと思われがちですが「実は青源の味噌造りは時代に逆行しているんです」と村田さんは明かします。
食品工場のオートメーション化が進む中、青源では全ての原料の計量を人の手で行います。麹も人の目で温度の変化を追い、風を入れるなどの微調整を行いながら育てているのです。
他にも製造工程の機械化を減らしたため、三番町時代に1日2回だった仕込みの回数は、しもつけ工場では1回になりました。
人の手が、人の想いが、良い味噌をつくるー。
「大変なんですけどね、やっぱり人の手が携わって、人の想いが入って、味噌はできるものだと思うから」
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創業の地・宇都宮をはじめとする多くのお客さまのご愛顧に支えられ、青源は創業400年を迎えます。
そんな青源の魅力を、村田さんは、こう語ります。「しもつけ工場も、青源本店も、味噌と餃子の青源パセオ店も、みやげんも。働く人たちの魅力が、青源の魅力につながっていて、それが商品ににじみ出ているんだと思います」
400年の歴史で、青源は度重なる大火や戦争に見舞われながらも、そのたびに働く人々が結集し「ここから頑張ろう」と苦難を乗り越え、立て直してきました。
それは、2019年台風19号の田川氾濫時も同じ。
「声をかけてもいないのに、泥だらけになった会社に皆が集まった。会社だけでなく、近所の人の家の泥かきも皆で手伝いました。そういう人たちが集まっているのが、青源なんです」
【編集後記】
自身を「まじめ」と分析する村田さん。いつも胸にあるのは「人に優しくしなさい」というおばあちゃんの言葉だそうです。「ホームヘルパー2級」の資格も持ち、困った人を放っておけない、気配りの方でもあります。
教室の受講生から「美肌の秘けつ」を聞かれるほど、肌がきれいですが、日々のケアは朝、水で顔を洗うだけ。化粧水も使ったことがなく「味噌や麹と毎日、触れ合っているからですかね」。発酵食品のある暮らしが「美」の秘けつなのかもしれません。
一方、青源の中では、頼れる「機械通」で、パソコンなどの不具合があると、あちこちからお呼びがかかる“人気者”です。休日はバイク整備をして過ごす時間がお好きで、部品をばらして、磨いて、取り付ける作業に没頭しているそうです。「もし今、大学に行けたら、工学部で勉強してロボットを造りたい」。野望?妄想?も、こっそりと明かしてくれました。
青源本店に人間型ロボット「アシモ」ならぬ、味噌型ロボット「ミソモ」が登場する日も近い…?